当たり前のことが実はすごくありがたい

　真織はある事故をきっかけに、寝ると前日の記憶がリセットされてしまう難病を患った女の子。透との出会いも毎日が初めましてなので、寝る前に日記を書き、翌朝、日記を読んで一日をスタートさせる。

「それだけでも切ないですよね。それを知った透は最初は驚きながらも、真織のために献身的に向き合うんです」

　ちなみに、西垣くんが人生で忘れてしまいたい記憶はありますか？

「…ないです（笑）。僕は寝たら嫌なことは忘れちゃうタイプです。こういう性格になったのは、小学３年生からフェンシングをやっていて、負けても次の日に試合があったり、練習をしないといけないので、自然と忘れるようになったのかなと思います。切り替えができるという意味では、今の仕事にもぴったりじゃないかなと思っています（笑）」

　今年の夏は、忘れたくない過去の恋愛を振り返りつつ、『セカコイ』の世界に浸ってみては？

「読者のみなさんもそうだと思うんですけど、初恋や昔好きだった人のことは時間がたつにつれて、自分の記憶の中から存在がどんどん薄くなっていっちゃうと思うんです。だけど、この映画を観ればまたちょっと感傷に浸れるというか、好きな人のことをいちずに思った時期が自分にもあったなとか、そういう経験をしたからこそ今の自分がいるんだなってあらためてまた昔を振り返って、今を大切にしたいって思ってもらえる気がしています」

　恋愛だけじゃなく、一日一日を後悔なく大切に生きようという気持ちも芽生えてくる。

「昨日の記憶がちゃんとあって、何気なく“明日はこんなことをしよう”と計画を立てることが当たり前だったのですが、真織のような子がいることを知って、普通に生活できてることが実はすごくありがたいことなんだなって思えました。なので、感動した景色や大事なことはちゃんと心に刻んでおきたいって強く感じました」

　西垣くんは、役者としてデビューして今年で2年目。今後、挑戦したい役柄はというと――。

「先生の役をやりたいと思っているんです。僕の家が祖父も父もおじさんも教師ということもあって、子どもたちに何かを教えたり何かを伝えることを仕事にしているんです。なので、僕も作品を通して役の思いを観てくださる人たちに届け、何かを感じ取ってもらえたらと思ってるんです。それは『ドラゴン桜』で、阿部寛さんとたくさんの時間をご一緒できたことも影響しているのかもしれません。役とご本人のたたずまいが、そのまま桜木先生で、僕たち生徒をすごく引っ張っていってくれて、いろんなことを教えてくださいました。そういう姿がカッコいいと思いましたし、ああいう男性になりたいと思いました。今はまだ23歳なので、さまざまな役や作品に挑戦していきたいです」